当時80歳目前の母は、年相応の持病を人なみにだかえていたが、ふだんは元気でふつうに生活できていた。 |
しかし検診で腎臓がんが発見された。 |
すでに肺に転移していたが、腎臓の摘出手術をすれば、非常に稀だが肺がんも治った事例があると医者に言われ、母とおれは悩んだすえ受けると決めた。 |
手術自体は成功したが、体調が一気に悪くなり、以後入退院を繰り返し、精神状態も不安定になった。 |
その年の8月、病院で死亡。 |
手術は母も納得して決めたのだが、おれが反対して止めればよかった。もし自分がこの立場ならたぶん受けないだろうと感じていたのだ。 |
しかしそれは言わず、母の人生は母が決めるべきだと言い、責任を引き受けることから逃げた。 |
結果論だが、手術しなければ、母は今もまだ生きていたかもしれないと思うと無念だ。 |
おれは母との体験から、たとえ数%でも助かる可能性があると医者に言われれば、患者はそれにすがってしまうし、たとえ身内でもそれについてとやかく言いがたいという悩ましい事実を知った。
(過去記事編集再録)