哲学日記

存在の意味について、日々思いついたことを書き綴ったものです。 このテーマに興味のある方だけ見てください。 (とはいえ、途中から懐かしいロック、日々雑感等の増量剤をまぜてふやけた味になってます)

架空対談17

休憩終了。架空対談再開。

司会者
では、…「人間だけが持つ根源的不安」についての話から続けてください。

仏教者
平均人の不安は、単純に挫折の予感といいかえられる。
それは、もとは自分の肉体が不完全であることを知り、その事実が人間にとって致命的なマイナスであると彼(彼女)が信じていることから来ていると思います。
肉体は常に飲食・排泄を必要とする。その必要を完全に満たしても、しばしば筋肉は疲れ身体は痛み病気は防げない。
病気から運良くまぬがれても、身体は不可避的に朽ち、時が至れば死が彼を滅ぼす。
彼はそれを耐えがたいストレスと受け取るので、逃げる。
彼は、それがひょっとしたら恩恵かもしれないとは、夢にも思っていないわけです。

キリスト者
その「彼」ってのは、だれかの精神のことですね。この人のこと?(と、現実主義者を見る)

仏教者
いいえ、人類の精神です。

司会者
恩恵かもしれないとは、どういう意味ですか。

仏教者
人間がもし肉体的に完全に生まれついていたら、ほとんどの人間は自分の高慢に気づくことができなくなるでしょう。そうなれば、人間はただの高等動物で終わることになったでしょう。

現実主義者
そうらきた(笑)
あんたたちときたら、どうしてそんな奇妙な強がりをしなきゃいけないのかね。
人間の肉体が不完全でそれが恩恵だというのなら、酷い障害者は大恩恵にあずかっていることになる。

仏教者
あなたは矛盾を突いているつもりだろうが、まさにそう思っていい場合もあります。
当事者にしかなかなか分からないことですから、あなたを納得させることは難しいのですが。

キリスト者
ともかく、ここでも不安の根底にあるものは、死なんですね。

現実主義者
そこで、死にうち勝つことはできないと考えた彼は、そんな嫌なことは忘れて、せめて今のうちにできるだけ遊んでおこうと思う(笑)

仏教者
あんたひとりのことなら、それもいいでしょう。
しかし、これが人間すべてに例外なく降りかかっている運命であることにはっきり気づくなら、その考えのあまりに愚かしいことにも気づくでしょう。

キリスト者
だいたい、忘れようったって忘れられることじゃないんだから、これは(笑)

現実主義者
まあ、…そうだ。
真夜中に、ふと思い立って海を見に行ったり、恋は両思いが望ましいに決まっているのに、葉隠聞書の、片思いに終始する「忍ぶ恋」が至極だという説に、ふと強い魅力を感じたりすること(昔の自分のことです)には、いったいどんな事情があるのかと考えてみると…

仏教者
死がある。

現実主義者
そうなんだよなあ。

キリスト者
つまり、「自分はいつか死にゆく者だ。しかし、なぜそうでなくてはならないのか」
という解きがたい疑問にやりきれない不安を意識下で感じ続けている証拠なんだよね。本人はすっかり忘れているつもりでも、そうは問屋が卸さない(笑)






(続く)