キリスト者
じつに、感覚的体験というものが、新鮮に感じられるのは、はじめだけです。
してみると、これは感覚がわたしを欺いているのだと思わざるを得ない。
現実主義者
それは、男女間の快楽にもいえますか。
キリスト者
少なくとも、セックスの快楽については確実にいえます。
現実主義者
だんだん良くなる場合だってあると思うけど(笑)
キリスト者
それは、いろいろ工夫して、ごまかしているから(笑)
現実主義者
それがまた楽しかったりして(笑)
キリスト者
こまったな(笑)
現実主義者
なんで、こまるんですか。
キリスト者
「男こそわがすべて」という、神知らずの女性側の口吻そのままに、男が「女こそわがすべて」といって安心立命しているのでは、「人が生きているのは、そも何のためか」と問われても、なんとも答えようがなくなる。
現実主義者
じゃあ、どうせいいうの(笑)
キリスト者
キリストや釈尊に、われわれの思いを込めなければならんと思うね。
なんと尊い生命であることか、この世に生きていることを精一杯楽しめ、とあなたは言う。
それなら、いずれ絶対死なねばならぬ宿命をどうあつかうのか。あつかいようがないじゃないですか。
実際は、ただごまかしているだけではないですか。
いったい、生をむさぼるだけの態度が、なんで健康的ですか、猿じゃあるまいし(笑)
現実主義者
あなたのいいたいことは分からないでもないんですがね。
人生に無常を感じて、はかなんだり沈みこんだりする。はては、死後の世界などという当てにならないものにすがりつく。
そんな、お婆くさい有様は、惨めたらしくて見るに耐えないですよ。
同じごまかしなら、生を謳歌して元気なほうがいいのであって…
キリスト者
いや、それは違うと思う。
たいした考えもなく「生きてることが最高さ」という根無し草的人生こそ正視に耐えない。
仏教者
死ぬということは、真剣に考えなきゃならんですよ。
現実主義者
それは、だれでも真剣でしょ。
仏教者
いやいや、さにあらず(笑)
(続く)