哲学日記

 いつくたばってもおかしくない爺です。存在の意味について、日々思いついたことを書き綴ったものです。 このテーマに興味のある方だけ見てください。 (とはいえ、途中から懐かしいロック、日々雑感等の増量剤をまぜてふやけた味になってます)

五重塔

 

 

 じつは、五重塔ごじゅうのとう」(作:幸田露伴)という古い小説が大好きです。

露伴は骨太で饒舌という、現代小説家にはない面白さがある。
露伴の娘の文、その娘の玉、そのまた娘の奈緒と文学者が続き、「だんだん小粒になっていく」と批評されると、奈緒さんが「時代が下るにしたがって人間自体のスケールが小さくなっている。私だけの問題じゃない」という意味の反論をしていたのも面白かった(以前テレビで見た気がする。あまり定かでない)。
五重塔」は現代小説の基準から判定すれば、多くの減点ポイントを指摘するのはたやすいことで評価も低くなろうが、その現代的基準のほうが間違ってるんじゃないかと思わせる力強さが、「五重塔」にはある。

 

主人公「のつそり十兵衞」の世に稀な信念の生きざまを、よくここまで見事に表現しえたものと、何度読んでもその卓越した筆力に感心してしまう。

 

【朗読】幸田露伴五重塔」  朗読・あべよしみ


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十兵衞の親方・川越の源太が親切に差し出した大事な図面類を、十兵衞が「別段拝借いたしても」とつきかえす場面は圧巻です。

此品これをば汝は要らぬと云ふのか、といかりを底に匿して問ふに、のつそり左様とは気もつかねば、別段拝借いたしても、と一句迂濶うつかり答ふる途端、鋭き気性の源太は堪らず、親切の上親切を尽して我が智慧思案を凝らせし絵図まで与らむといふものを、無下に返すか慮外なり、何程自己おのれが手腕の好て他の好情なさけを無にするか、そも/\最初におのれめが我が対岸へ廻はりし時にも腹は立ちしが、じつと堪へて争はず、普通大体なみたいていのものならば我が庇蔭かげたる身をもつて一つ仕事に手を入るゝか、打擲いても飽かぬ奴と、怒つて怒つて何にも為べきを、可愛きものにおもへばこそ一言半句の厭味も云はず、唯※(二の字点、1-2-22)自然の成行に任せ置きしを忘れし歟、上人様の御諭しを受けての後も分別に分別渇らしてわざ/\出掛け、汝のために相談をかけてやりしも勝手の意地張り、大体たいていならぬものとても堪忍がまんなるべきところならぬを、よく/\汝を最惜いとしがればぞ踏み耐へたるとも知らざる歟、汝が運の好きのみにて汝が手腕の好きのみにて汝が心の正直のみにて、上人様より今度の工事しごと命けられしと思ひ居る歟、此品をば与つて此源太が恩がましくでも思ふと思ふか、乃至はもはや慢気の萌しててんから何の詰らぬ者と人の絵図をも易く思ふか、取らぬとあるに強はせじ、余りといへば人情なき奴、あゝ有り難うござりますると喜び受けて此中の仕様を一所ひととこ二所ふたとこは用ひし上に、彼箇所は御蔭でうまう行きましたと後で挨拶するほどの事はあつても当然なるに、開けて見もせず覗きもせず、知れ切つたると云はぬばかりに愛想もすげもなく要らぬとは、汝十兵衞よくも撥ねたの、此源太が仕た図の中に汝の知つた者のみ有らうや、汝等うぬらが工風の輪の外に源太が跳り出ずに有らうか、見るに足らぬと其方で思はば汝が手筋も知れてある、大方高の知れた塔建たぬ前から眼にうつつて気の毒ながら批難なんもある、既堪忍の緒も断れたり、卑劣きたな返報かへしは為まいなれど源太が烈しい意趣返報は、為る時為さで置くべき歟、酸くなるほどに今までは口もきいたが既きかぬ、一旦思ひ捨つる上は口きくほどの未練も有たぬ、三年なりとも十年なりとも返報しかへしするに充分な事のあるまで、物蔭から眼を光らして睨みつめ無言でじつと待つてゝ呉れうと、気性が違へば思はくも一二度終に三度めで無残至極に齟齬くひちがひ、いと物静に言葉を低めて、十兵衞殿、と殿の字を急につけ出し叮嚀に、要らぬといふ図は仕舞ひましよ、汝一人で建つる塔定めて立派に出来やうが、地震か風の有らう時壊るゝことは有るまいな、と軽くは云へど深く嘲けることばに十兵衞も快よからず、のつそりでも恥辱はぢは知つて居ります、と底力味あるくさびを打てば、中※(二の字点、1-2-22)見事な一言ぢや、忘れぬやうに記臆おぼえて居やうと、釘をさしつゝ恐ろしく睥みて後は物云はず、

 

 

ちなみに、もうひとつ驚かされたことがある。
この小説は台風を次のように表現している。現代小説ではありえない発想が、今読むと実に新鮮だ。現代の小説家がこれを減点とみなすなら「猫は虎の心を知らず」と言いたい。

飛天夜叉王、怒号の声音たけ/″\しく、汝等人を憚るな、汝等人間ひとに憚られよ、人間は我等を軽んじたり、久しく我等を賤みたり、我等に捧ぐべき筈の定めのにへを忘れたり、這ふ代りとして立つて行く狗、驕奢おごりねぐら巣作れるとり尻尾しりをなき猿、物言ふ蛇、露誠実まことなき狐の子、汚穢けがれを知らざるゐのこ、彼等に長く侮られて遂に何時まで忍び得む、我等を長く侮らせて彼等を何時まで誇らすべき、忍ぶべきだけ忍びたり誇らすべきだけ誇らしたり、六十四年は既に過ぎたり、我等を縛せし機運の鉄鎖、我等を囚へし慈にん岩窟いはやは我が神力にて※(「てへん+止」、第3水準1-84-71)ちぎり棄てたり崩潰くづれさしたり、汝等暴れよ今こそ暴れよ、何十年の恨の毒気を彼等に返せ一時に返せ、彼等が驕慢ほこりの臭さを鉄囲山外てつゐさんげつかんで捨てよ、彼等の頭を地につかしめよ、無慈悲の斧の刃味の好さを彼等が胸に試みよ、惨酷の矛、瞋恚しんいの剣の刃糞と彼等をなしくれよ、彼等がのんどに氷を与へて苦寒に怖れわなゝかしめよ、彼等が胆に針を与へて秘密の痛みに堪ざらしめよ、彼等が眼前めさきに彼等が生したる多数おほくの奢侈の子孫を殺して、玩物の念を嗟歎の灰の河に埋めよ、彼等は蚕児かひこの家を奪ひぬ汝等彼等の家を奪へや、彼等は蚕児の智慧を笑ひぬ汝等彼等の智慧を讚せよ、すべて彼等の巧みとおもへる智慧を讚せよ、大とおもへるこゝろを讚せよ、美しと自らおもへる情を讚せよ、かなへりとなす理を讚せよ、つよしとなせる力を讚せよ、すべては我等の矛の餌なれば、剣の餌なれば斧の餌なれば、讚して後に利器えものひ、よき餌をつくりし彼等を笑へ、嬲らるゝだけ彼等を嬲れ、急に屠るな嬲り殺せ、活しながらに一枚※(二の字点、1-2-22)※(二の字点、1-2-22)皮を剥ぎ取れ、肉を剥ぎとれ、彼等が心臓しんを鞠として蹴よ、枳棘からたちをもて脊をてよ、歎息の呼吸涙の水、動悸の血の音悲鳴の声、其等をすべて人間ひとより取れ、残忍の外快楽なし、酷烈ならずば汝等疾く死ね、れよ進めよ、無法に住して放逸無慚無理無体にれ立て暴れ立て進め進め、神とも戦へぶつをも擲け、道理をやぶつて壊りすてなば天下は我等がものなるぞと、叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)する度土石を飛ばして丑の刻より寅の刻、卯となり辰となるまでもちつとも止まず励ましたつれば、数万すまん眷属けんぞく勇みをなし、水を渡るは波を蹴かへし、をかを走るは沙を蹴かへし、天地を塵埃ほこりに黄ばまして日の光をもほとほと掩ひ、斧を揮つて数寄者が手入れ怠りなき松を冷笑あざわらひつゝほつきと斫るあり、矛を舞はして板屋根に忽ち穴を穿つもあり、ゆさ/\/\と怪力もてさも堅固なる家を動かし橋を揺がすものもあり。手ぬるし手ぬるし酷さが足らぬ、我に続けと憤怒の牙噛み鳴らしつゝ夜叉王の躍り上つて焦躁いらだてば、虚空に充ち満ちたる眷属、をたけび鋭くをめき叫んで遮に無に暴威を揮ふほどに、神前寺内に立てる樹も富家の庭に養はれし樹も、声振り絞つて泣き悲み、見る/\大地の髪の毛は恐怖に一※(二の字点、1-2-22)竪立じゆりつなし、柳は倒れ竹は割るゝ折しも、黒雲空に流れて樫の実よりも大きなる雨ばらり/\と降り出せば、得たりとます/\暴るゝ夜叉、垣を引き捨て塀を蹴倒し、門をもこはし屋根をもめくり軒端の瓦を踏み砕き、唯一揉に屑屋を飛ばし二揉み揉んでは二階を捻ぢ取り、三たび揉んでは某寺なにがしでらを物の見事につひやし崩し、どう/\どつとときをあぐる其度毎に心を冷し胸を騒がす人※(二の字点、1-2-22)の、彼に気づかひ此に案ずる笑止の様を見ては喜び、居所さへも無くされて悲むものを見ては喜び、いよ/\図に乗り狼藉のあらむ限りを逞しうすれば、八百八町百万の人みな生ける心地せず顔色さらにあらばこそ。

 

 

(おれは読書嫌いで、そもそも読んだ小説の絶対量が非常に少ない、その範囲内での感想に過ぎません)




 

 

 

(My Favorite Songs)
「花(すべての人の心に花を)」

真実の持つ力で癒されるこんな曲を作る喜納昌吉は天才だ。
 
「花」すべての人の心に花を   夏川りみ

 

(過去記事編集再録)